投資家が取っている与信は、変動利付債券の部分とスワップ部分の合計である。
債券価格が、105.70%の場合には、変動利付債券に対して100.00%、スワップ部分に対して5.70%の信用リスクをそれぞれ負っていることになる。
この時のスワップ部分の与信リスクこそスワップの信用リスクに他ならず、スワップのカレントエクスポージャーと呼ばれる概念である。
スワップの信用リスクは、この債券価格と同じように変動し、金利が低下すればするほど債券価格は上昇するので、信用リスクも上昇することになる。
一方、金利が上昇し債券価格が100.00%以下になった場合には、スワップのカレントエクスポージャーがマイナスになりこの投資家にとってスワップの信用リスクはないと言える。
しかしながら、SPCの取引相手であるスワップ銀行の方からすれば反対にカレントエクスポージャーがプラスになり、SPCに対して与信リスクが発生していることになる。
スワップにおける信用リスクは、金利水準により変化することになる。
その変化の方向は、債券投資を前提に考えれば非常に分かりやすい。
期間の長い債券の方が、短い債券より価格の値動きが激しいように、期間の長いスワップ取引は短いスワップ取引に比べてカレントエクスポージャーの動きが激しく、その意味で大きな信用リスクを持つことになる。
SPCが発行した債券に関しては、債券とスワップ相手方で別々の与信を管理することが必要になるが、もし投資家がスワップ銀行の与信リスクを取れないとした場合いかなる解決策があるのだろうか。
第一の方法として、信用力が高い第三者がスワップの相手方の信用を保証する方法がある。
もしスワップの相手方が、デフォルトを起こしたとしても、スワップ保証者がスワップのキャッシュフローを保証したり、スワップの清算価値を保証すれば投資家は損害を被ることを免れることになる。
この手法は、邦銀の信用力が低下している現在、相対的に格付けが高い損害保険会社が保証者になるなどかなり実績が増加しつつある。
次の方法として、あらかじめスワップ銀行が米国債や日本の国債等信用力の高い債券を担保として積む方法である。
この場合スワップの相手方がデフォルトを起こしたとしても、担保を処分することにより実質的損害を回避することが可能になるからである。
この様な方法は、SPCとスワップ銀行のスワップ取引に限定されることなく、銀行間や対顧客スワップ取引等広く行われている。
また、実務的には、スワップのカレントエクスポージャーを日々値洗いし、一定の与信限度額を超えた場合、担保を積み増したり、あるいは速やかにそのスワップを清算し、それより信用の高いスワップの相手方とスワップを再締結するなどの方法も一般的に行われている。
スワップにおける信用リスクを軽減する手法が発達することによって、これまでお互いの信用リスクをとることが難しかった期間10年を超えるスワップ取引が可能になり、10年を超える超長期のスワップ市場が急速に拡大している。
また、スワップ取引を毎日値洗いして、必要に応じてはスワップ取引を清算したり、また違う相手とスワップ取引を再構築することが一般化するにつれて、スワップ自身が証券のように流動性を持ちはじめている。
このことは、前に使った固定利付債券を変動利付債券と金利スワップ部分に分解した説明を思い浮かべ、金利スワップの部分が証券化し売買されていることを類推したら非常に分かりやすいと思う。
金利を尺度としたリクスとリターンの関係が日本においてやっと根付きはじめていることを説明した。
信用リスクが市場参加者の需要と供給の関係から金利によって計量化されるという「市場原理」のメカニズムが手の届くところまで近づいてきた。
その「市場原理」導入のプロセスにおいて、円金利スワップをはじめとするデリバティブがきわめて重要な役割を果たしたことを説明した。
市場金利の定着と情報開示の浸透とともに顕在化する信用格差によって、金利を軸に据えたリスクとリターンの関係は明解になっていくであろう。
ところが金利市場とともに調達者と運用者とをつなぎあわせる役割を演じる株式市場となると、話はそう簡単にはいかない。
金利の世界では規制金利に対して、従来ユーザーからの強い抵抗があった。
たとえば銀行は運用調達の両サイドとも規制金利である時代には、パイを大きくすれば収益が拡大する仕組みとなっており、規制金利の恩恵を十二分に受けていた。
ところが、逆に銀行からの借り手、銀行への預金者からみればまったくメリットがない。
したがって、デリバティブのような規制金利を打ち砕くような手段に対しては、当初は中身がわからないという食わず嫌い的な反応はあったものの、その点が払拭されたのちには当然のことながら借り手・預金者などから積極的な支持を得るに至った。
信用格差についても、たとえば金融機関の横並び現象はそれを選ぶ顧客恒常的に巨大な株式のポートフォリオを抱えている。
したがって、株式市場に過大な売りニーズが出て、価格が崩壊するとそれを絶好の追加投資の機会と考えるのは少数派であり、むしろ大多数の人々がパニックを起こす仕組みができあがっている。
たとえば、PERが高すぎて株式市場に割高感を強く持っていても機関投資家は大きな売りを仕掛けるわけにはいかない。
巨大な株式ポートフォリオを持つ機関投資家・銀行などは大量の株式売却をおこなおうとしても保有株式すべてを一度にまとめて売却することは事実上不可能である。
彼らが仕掛けた売却は、よほどの強気市場の相場環境でない限り株式価格の大幅下落を招き、2回目以降の売却価格を極めて不利なものとする。
結局は己の首を絞めるだけなのである。
さらに企業と金融機関との間には日本特有の株式の持ち合いがある以上、保有株式の売却は同時に当該株式の発行者からの報復的な株式の売りを招く可能性は極めて強い。
また一方、1980年代に廉価の資金調達を株式市場において実現した経験を持つ企業は、いまでも株式市場が恒常的に右肩上がりであることを前提とした調達システムの復活に期待している。
これが日本の株式市場における参加者たちのメンタリティである。
翻ってみるに日本の資本市場システムは高度成長を大前提とし、企業の配当性向を低めに押さえ、その代わりとして蓄積された内部留保金を成長分野に投資できる立場にある企業に資本の再配分を行わせていた。
高度成長の終わりとともに従来の牽引車的役割を果たしていた重厚長大を中心とする大手企業から、機動力と成長性を秘めたベンチャー企業などへの資本の再配分が行われるべきタイミングが到来していたはずである。
株式市場の参加者のメンタリティ、ならびにそれにより形成された株式市場の客観的な構造が、従来型の大企業と金融機関を中心とする株式の持ち合い現象を必要以上に存続させてしまっている。
株式持ち合いは規制市場の論理である。
株の供給を抑制することによる株価下落への牽制、ならびに低配当率での株価維持、といった点において非市場性取引である。
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